暮らしに役立つ方言「うるかす」に感じる生活の知恵
先日ものかき部スタッフと、お勧めの本を持ち寄って紹介し合う会を開いてみました。ジャンルは関係なく、論文系、小説、詩集など、その人らしさが見えるような本も集まり、面白い会になったと思います。
その中で私が気になったのは、かしわさんが持ってきてくれた『翻訳できない世界のことば』。日本語1語だけで表現できない、世界中の独特な表現をする言葉を集めた本。生活の1シーンで登場するような、そのときの感情や情景をたった一言で表現する言葉は、日本語の表現の想像を超えてくるから面白い。そしていつかその場面に出くわしたとき、ぜひ使ってみたいとも思います。
一方で日本語独特の表現も、この本の中ではいくつか紹介されています。「木漏れ日」なんかは、日本語ならではの表現みたい。
本について議論していくうちに、ふと、日本語の中でも標準語一言では言い表せない表現があるかもしれないと思いました。方言はとくに、その土地の環境や暮らしに馴染んだ、独特な言葉があるような気がする。そう思って日頃の生活の中の会話を振り返ると、「うるかす」という便利な方言をよく使っていたことに気が付きました。
なじみ深く便利な方言「うるかす」を、暮らしの中で使うとき
「うるかす」は、主に「水に浸けておく・水に浸して湿らす」という意味で、東北地方を中心に使われています。私の地元では「うるがす」と発音することが多いです。
例えばこんな暮らしの場面で登場します。
食事がすんだあと、食器を重ねて流し台に持って行く。そうすると聞こえてくる「それ、うるかしといてー」っていう言葉。
「うるかしといて」は「うるかす」と「~しておいて(お願い)」の意味になります。ここでは「食器を水につけておいて」っていう意味で使われます。
後の家事、つまり食器洗いをするときに、米粒や汚れが楽に落ちるようにするための便利な表現です。
他にも炊飯前の生米を、水につけておくときにも使われます。この場合、生活の中で使うとするならば、「いま、米をうるかしてる」などの表現をします。
東北出身の私にとっては、普段の会話でも無意識に出てきてしまうこの言葉。生活に馴染みすぎていたので、方言だと知った時は衝撃でした。しかし標準語に言い替えるのも少し寂しい感じ。方言だとわかっていても、なにかと使ってしまう便利な言葉なのです。
方言から気が付く、丁寧な暮らしのヒント
「うるかす」は「潤す(うるおす)」からきている言葉のようです。
だけどあらためて考えると、ゆっくりとした、なにか時間の流れや、その時間を丁寧に過ごしているような情景も感じます。だから暮らしの中で登場するときは、その場面ではのんびりしているようでも、後の作業や時間を有意義にするために使われるような気がします。
てきぱきと仕事をするとか、ひとつひとつ丁寧に家事をするのもいいけれど、このときだけは焦らず時間の流れるままに。そんな気持ちも、ときには必要なのかもしれません。
上京してきてから方言を使う機会は少なくなったけれど、こんなふうにふとした時に無意識に発してしまう現象は意外と好き。幼いころから使ってきたから私にとっては暮らしにも口にも馴染んでいるし、やっぱりそのままの気持ちがそのまま乗せられる気がします。だけど田舎者感が出すぎるとちょっと恥ずかしいのはまだ拭えない……
たまに標準語に変換しにくい言葉に気が付いたりして、それはそれで、ちょうどいい表現を探すのが面白かったりもします。
生活に寄り添う、知らない日本語の面白さ
外国語にも、もちろん知らない言葉がたくさん。しかし一方で、日本語の中にもまだまだ知らない表現がたくさんありそうです。辞書に載っている言葉は網羅しきれなくても、今の気持ちを的確に表現する言葉が見つかったら、それはきっととても心地よいことだと思います。
言葉を誰かに伝えたとき、または誰かに教えてもらったときに、「その情景がなんかわかるような気がする」といった、そんな共感の気持ちが生まれたら。新しい言葉との出会いも大切にしながら、心地よく伝えられる表現を見つけていきたいと思います。
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