夏の高校野球。試合中止を受け丁寧に思い出す、私の暮らし・生活
春・夏の甲子園が中止になった今年。選手たちのことを思うと胸が痛くなります。このニュースがこんなに気になるのは、高校生のとき、野球部のマネージャーをしていたから。
テレビやSNSで「なぜ高校野球だけ特別視するの?」「たかが高校生の部活なんだから大騒ぎしなくても…」というような声を聞くと、なんとも言えない気分になります。私の住む県では無観客での代替大会の実施が決まり、見には行けなくても、少しホッとしました。
マネージャーになりたいと思ったきっかけは、中学3年のときにテレビで見た夏の甲子園の決勝戦でした。具体的なシーンは忘れてしまったけど、その試合の対戦カードや準優勝校のピッチャーの名前、スポーツを見て感動した初めての体験だったことは覚えています。その後に買った高校野球特集の雑誌がどんな表紙だったかも、ぼんやり覚えています。
高校に入って念願のマネージャーになって3年間…実質、夏の大会で引退するまでの2年4ヶ月。今でもクローゼットの奥に大切にとってある当時の思い出の品を久しぶりに広げてみました。
毎試合毎試合書き残していた、練習試合と公式戦の全記録。
幼馴染が野球推薦で進学したスポーツ強豪校が甲子園に行った高2の夏、テレビ画面越しに応援しながら書いたスコアブック。今はもう書き方を忘れてしまったけど、しばらく眺めていたら「この選手がホームラン打ってたんだ!」「これは“残塁”のマークだっけ」と、読み方をだんだん思い出してきて楽しくなりました。
夏の大会の時期になると地方新聞に挟み込まれる全出場校の選手紹介の冊子や、自分のチームの試合結果の新聞の切り抜き。打順や安打記錄を読んでいると、球場の空気感が蘇ってきます。試合開始のサイレンの音…金属バット特有の「カキーン!」っていう気持ちのいい響きも好きだったな。
最後の夏の試合前、選手たちにメッセージを書き込んでもらったメガホン。私たちの代は夏の大会で1勝もできなくて、試合後、キャプテンに「勝てなくてゴメン」と言われたなぁと、少し感傷的な気分に。
この試合のグラウンドの土を纏った試合球。文字は監督が書いてくれたもの。今更ながら「こんな大事なもの、私がもらっちゃって良かったのかな…」という気持ちになりました。
高校を卒業するときに監督からいただいた記念のトロフィーは、箱に入れたままキレイな状態。「〇〇高校野球部」の文字と自分の名前が刻まれています。
こんなにたくさん大事にとってあったのかと、懐かしすぎて自然と笑顔になりました。
しまい込んでいた思い出は進路の決定打
卒業後もしばらくは、数年に1回、部員で集まることがありました。選手たちはいつになっても、いろんな試合のワンシーンを本当に鮮明に覚えていました。「あの試合の6回2アウト1・3塁で3点差のとき、お前の打った球がこうなって…」とか「最後に負けたのは、俺のあのプレーのせいだー‼」とか。
社会人になって数年経ってから久し振りに集まったときには、同級生のキャプテンが仏のような柔らかい顔つきになっていました。スポーツなどで体を故障した人のリハビリをサポートする仕事をしていて、「今はチームのリーダーを任せてもらっていて、大変だけどやりがいがある」と言っていました。キャプテンはやっぱり今もキャプテンなんだなぁと、とても印象に残っています。
私も、部活に明け暮れていたころのことが、その後の進路を決めるきっかけになっています。
夏の甲子園が始まると、テレビで見ているだけでなく、高校野球の雑誌を夢中になって読んでいました。二度と見られない一瞬を切り取った写真や、試合後の選手の姿を捉えた写真たちも、大事なものに思えました。
「こんな風に、試合の詳細だけでなく、選手一人一人のストーリーを記錄に残して、感動を伝える仕事っていいなぁ」
そして高校卒業後、雑誌づくりを学べる学校へ。
取材して記事を書く編集者にはならなかったけど、誌面をつくる仕事に就きました。キャリアの最初のころは、下請けの制作会社でいくつかの雑誌に携わりました。
高2の夏、テレビを見ながらスコアを書いたあの試合で登板していた同郷のピッチャーがプロ選手になり、彼の活躍を伝えるスポーツ誌のページを担当したとき、ユニフォーム姿の彼を写真越しに見て、なんと表現したらいいのかわからない、ふわふわと温かい気持ちになったのを覚えています。
歳を重ねるにつれ夢や目標は形を変えていったけど、今もこうして縁あって、文章を書いてなにかを伝える仕事をさせてもらっています。
“感動” が自分をつくっている
少し前に読んだ本に書いてあったこんな一文が思い浮かびました。
「本当の自分は、なにかに感動できる自分」
たった2年4ヶ月の経験だけど、何年経っても、ちゃんと残っていて…だから、私にとっては“たかが部活”と割り切れないものだったのです。
これからは、クローゼットの奥にしまい込んだ“感動”のことをときどき思い出しながら、新たな“感動”との出会いでどんな自分が生まれるかを楽しみにしたいと思います。
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