夜行バスで見えたもの。生活の中で見失いがちなことを丁寧に拾う

新宿

もうすぐ年末。今年は実家に帰省するか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。私も帰省するか決めあぐねているうちのひとり。帰るならそろそろ新幹線の予約をしないとなぁと思ってふと、いつの間にか交通手段の選択肢の中から夜行バスが消えてしまっていることに気が付きました。
最後に乗ったのは確か2年前。当時とは違う光景がそこにはありました。

夜行バスで連れてこられた新宿は、朝と夜とで別の世界

夜行バスを頻繁に利用するようになったのは高校生から。アルバイトに時間を費やせなかったあの頃、たった数千円で東京まで往復できる夜行バスは、時間はかかるけれど便利な乗り物。

いつもは寝ている時間にバスに乗り込む背徳感、お供は決まって500mlのボルヴィック。ペットボトルの水を買う習慣なんてない生活だったので特別な感じ。深夜の真っ暗で静まり返ったサービスエリア、熱々の焼きおにぎりやたこ焼きが買える自動販売機。そして、新宿に着いたときの開放感と、ちょっと排気ガスが濃い空気。白みがかった空の下の新宿の街はテレビでよく見る人でごった返している姿ではなく、まだ眠ったままの静かな姿。人も車も少ない。ちょっとだけゴミが目立つ。
目が覚めたらいつもと違う、そんな、普段の生活では見ることのないものや街の姿に心が躍ります。
帰りはまた全く違う景色ばかり。到着した時とは真逆で人で溢れ返る新宿、ネオンが眩しい通りでお姉さんが生垣を枕に酒に潰れている姿、うるさい客引き、混雑している改札。狭い待合室ではなくセンタービル前でバスが到着するまでたむろっておしゃべりする時間、地下のコンビニのスムーズに開かない自動ドア。時間が来るとバス会社の名前と行先と出発時間を書いた紙を持って現れるバスの受付の人たち。バスに乗り込んでから見る首都高は真夜中でもピカピカと光っていて、まるで空に浮かぶ迷路のようで、道路ってどこまでも続いているんだなと思うのです。それを眺めてから眠りにつくのが好きでした。

東京以外にも、大阪や名古屋、岡山にも夜行バスで行きました。どこも早朝と深夜の表情は別人のように違うのが不思議で面白い。何度か利用するうちに、夜行バスにさえ乗れば日本のどこへでも連れて行ってもらえるような、目が覚めたらどこにいるんだろう、どんな特別な景色が待っているんだろうという、わくわく感も一緒に運んでくれる乗り物になっていました。

見せてくれたのは普段の生活では見られない眠ったままの街

夜の道路

歳を重ねるにつれ、自分の収入で生活できるようになるにつれ、夜行バスを利用することはなくなりました。目的地へ早く着きたい、長時間座っているのはしんどい、寝るのは自分のベッドがいい…当時は思いもしなかった感情が湧いて出てきます。
そうして夜行バスを利用しないうちに、新宿には新しいバスターミナルができていて、新宿に到着した後よく利用していたマックはなくなってしまい、センタービル前には全く行かなくなりました。なんだか私の中の思い出を奪われてしまったような、そんな寂しい気持ちになります。
もちろん、新幹線や飛行機で知らない土地へ行くのもわくわく感は付き物でしたが、降り立った時に眠ったままの街の表情とか空気に触れることはありません。人を受け入れる準備がすっかりできている、その街にとっていつもと同じ生活の中に引き込まれるだけのような感覚な気がしました。

久々に夜行バスを利用しようと思ったのは、ちょうど会社を辞めて時間がたくさんあったから。新宿バスタは思っていた何倍もきれいで、当時のバスを待っていた時間とは全くの別物でした。空調の効いた部屋、たくさんの椅子、大きな電子案内版、きれいなトイレ、バス到着時のアナウンス。その変わりように驚くばかりです。
でも、私の右手にあるのは当時と同じように500mlのボルヴィック。夜行バスに乗り込んで見える首都高は今見ても空に浮かぶ巨大な迷路のようだと以前と同じように思います。何度も乗った夜行バス、寝やすい体制も体が覚えていて自然とその体制になります。ガタガタと上下する車体、カーブではたまに遠心力で体がもっていかれるけれど、なんだかそれも懐かしい感覚で心地よくさえ感じます。
目的地に到着したのは朝の5時過ぎ。夏なのにまだ真っ暗な空。24時間やっているはずのマックは明かりはついているのに入り口は閉められたまま。他に行く場所もないしどうしようと焦りつつも、人の受け入れ態勢が整っていない眠ったままの街がなんだか面白くて、周辺をお散歩してみようかな、なんて思えたり。
やっぱり夜行バスを利用したからこそ見える景色ってあるのかもしれません。

街も暮らし方も変わるけれど、感じる私は変わらない

街の姿はどんどん変わっていくし、自分の行動パターンもいつまでも昔のままではないけれど、たまにはちょっと遠回りして時間をかけて、思い出すのも悪くないなと思うのです。案外当時の感覚って残っているものなんだなと、久々に夜行バスに乗って思いました。
いつの間にか普段の生活からは遠のいてしまっているもの、他にもそういったものがあるような気がして、もし年末実家に帰ったら中学の頃や高校の頃の通学路なんかをまたゆっくりと歩いてみたいなと思いました。何か感じることはあるのかな。

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