【はじめての読書会③】詩の楽しみ方のヒントは「わからない」

谷川俊太郎さんの詩集『バウムクーヘン』の画像

一冊の詩集に心惹かれて、ページを開いてみたら。

実は苦手意識を持っていた「詩」というもの。
ある一冊の詩集に出会ってわかった、詩の楽しみ方がありました。
ものかき部はじめての読書会のこと、少しだけお話させてください。
一緒に詩を、心を、言葉を、味わう時間になれたら幸いです。

詩を読んでいるとぶつかる「わからない」という気持ち

「むかしのしょうじょ」のページの画像

読書会のルールはひとつ「自由に話す」ということ。
だから「わからなかった」でも大丈夫。そこからわかることがきっとあるんだと、そう思います。

谷川俊太郎さんの詩集『バウムクーヘン』の最初の章の中でも、ひとつだけものかき部のメンバーみんなが「わからない」という一言から始まった詩がありました。

それは「むかしのしょうじょ」という詩。
どんな風景、人物、時代が浮かんでくるのか、ゆっくりと、詩の中に気持ちを乗せて読んでみました。

 

むかしのしょうじょ

いまのしょうじょではありません
あたしはむかしのしょうじょです
いまとおなじ かしのきのこかげで
あたしはびんぼうびんのことをかんがえる
びんぼうにんはかわでさかなをつる
ちぇんばろのおとにみみをすます
むしにさされたうでをかきむしる
むかしのしょうじょはもうみんなあのよです
でもものがたりはいきのこる
あたしたちをこわがらせるために
あたしのひらたいちぶさは
むかしもいまもひらたいけれど
こいびとはきにせずにあいしてくれる
あたしはうちへかえって
ほつれたれーすをつくろうゆめをみます

(詩集『バウムクーヘン』より「とまらない.ナナロク社.2018」)

難しい詩も丁寧に読み解いていけば、おもしろくなる

先ほどお伝えした通り、この「むかしのしょうじょ」については、読書会へ参加したメンバーみんなが、むずかしいとかよくわからなかったという感想を述べていました。
だけど、その「わからない」という感想をきっかけに想像はどんどん膨らんでいきます。

「『むかしのしょうじょ』という詩がよくわからなかったんですけど、みなさんどうでしたか?」

「わたしもこれだけよくわからなかった。」
「うーん。難しかったですね。」

「〈むかしのしょうじょ〉ってどういうことなんですかね。いくつくらいの人だろう?わたしはなんとなく27~28歳くらいに感じました。」

「19歳くらいかな。もうすぐ成人するティーンエイジャー。」

「わたしはもう少し若い年齢。〈おしろ〉や〈ちぇんばろ〉という言葉から、中世のヨーロッパのような時代を想像して、その時代にお嫁に行くことになった人なのかなぁと。
〈ほつれたれーすをつくろうゆめ〉っていうのが、お嫁に行くために諦めてしまった夢とかなんじゃないかなぁって。いろいろな制約を受け入れている感じがします。」

「おお~!」

ひとりのメンバーが語りだした、中世という時代は私の発想にはなくて、だからすごく興味が湧いてきました。
はじめはシーンとしていた空気もだんだんと盛り上がっていきます。

「〈びんぼうにん〉って誰だろう。あと〈むしにさされたうで〉をかきむしっているのって、〈あたし〉なのか〈びんぼうにん〉なのか。」

「実は〈あたし〉は〈びんぼうにん〉で、お城や音楽に憧れを抱いていた。だけど、現実問題そうはいかなくて、〈ぼつれたれーす〉を繕っているとか?」

「〈ほつれたれーす〉は過去の夢の象徴なのかなぁ」

「おおお~」

「なんだかとっても深くなってきましたね…(笑)」

「わからない」というきっかけが、詩を楽しくしてくれる

詩集とピンク色の花の画像

ここで出てきた内容が正しいというわけじゃないけれど、みんなで言葉をつなぎ合わせてひとつの詩にストーリーで色を付けることで、不思議な一体感や達成感が生まれていたように感じます。「わからない」とか「どういう意味なんだろう?」という素直な問いかけが、詩を楽しむためのヒントなのかもしれません。

結局「むかしのしょうじょ」を含めたすべての詩に対して「こういう内容だよね」という正解は見出さず、余白を残したまま読書会はお開きです。

大人になったいまだからこそ、趣味としての読書をはじめたい

『バウムクーヘン』の表紙。プリムローズという花のイラスト

読書会で出てきた『バウムクーヘン』についてのさまざまな言葉やストーリーは、著者である谷川俊太郎さんの想いや意図とは異なっているのかもしれません。
だけど、自由に詩に浸って、想像を膨らませたり言葉を紡ぎ続けたりと…栄養たっぷりの贅沢な時間でした。
教科書通りではないけれど、大人になった今、こういう詩の楽しみ方もありなんだと思います。

長年どこか疎遠に感じていた詩だけど、なんだかこれからは好きになれそうです。暮らしの中に詩を取り入れられたら、きっと心は豊かになるのかな。

この読書会の様子が、みなさんが詩を楽しむことになるきっかけになれたら幸いです。

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